登録施設・団体数 93 (2025年9月現在)
掲載施設・団体数 93 (2025年9月現在)
雲南市大東市Guesthouse IKIRU 人と人をつなぎ生き方の選択肢が増える宿

「ゲストハウス」と言えば、ドミトリースタイルで宿泊者とオーナーのコミュニケーションが醍醐味のイメージ。ですが最近は、宿から飛び出して地域と交わり、その土地の歴史や文化、そして多様な地域住民との交流に重きを置く拠点が増加中。2025年にオープンしたばかりの『Guesthouse IKIRU(生きる)』もそのひとつ。今回は“生き方の選択肢が増える”と、ゲストハウス好き界隈で話題の宿の魅力をひも解いていきます。

“何もない場所”だからこそ際立つ
田舎暮らし体験の魅力

“何もない場所”だからこそ際立つ田舎暮らし体験の魅力

島根県の県庁所在地・松江市から車で約30分。『Guesthouse IKIRU』があるのは、周囲を緑豊かな自然に囲まれた雲南市大東町の阿用(あよう)地区です。どこまでも続く水田、人よりも軽トラの姿が目立つTHE田舎な景観。観光サイトに載っていそうな主だった観光名所もありません。

この辺りの様子を知っている人なら「どうしてこんな場所にゲストハウスを!?」と、思わず質問してしまうほどの場所です。けれど、この何もない=機能性が高くない場所での滞在こそが「しまね田舎ツーリズム」の魅力のひとつ。

ただ泊まって、近くの観光やレジャースポットへ出かけるのではなく、宿を拠点に収穫体験や漁業体験、地域の伝統文化体験など、その土地の暮らしぶりに触れられる“コト体験”。そして何より、さまざまな体験を通して、地域の人と交流を深める“ヒト体験”が醍醐味なのです。

Guesthouse IKIRU
Guesthouse IKIRU

『Guesthouse IKIRU』も例に漏れず、特に“ヒト体験”の濃密さは特筆すべきもの。「今日はIKIRUにゲストが来るらしいよ」との情報を聞きつけた地域住民が続々と集結。年齢・性別いろいろな住民と、ゲスト、それにオーナー吉田さん夫妻を交えた飲み会が、ゲストが訪れる度開かれているそう。他愛もない話から始まり、地域の歴史話が飛び出したり、時にはゲストの人生相談があったり。参加者の数ほど話題は多岐に及びます。

そうやって話していくうち、気が付けば自身の気持ちがゆるゆるっとほぐされ、何だか思考もポジティブに。ある人は仕事面での悩みが解消され、またある人はこれからの生き方のヒントを見つける。『IKIRU』は漠然とした「生き方」の解像度を上げてくれる場所なのです。

全国134軒のゲストハウスに宿泊して
理想の形を見つける

オーナーの吉田勇輝(よしだゆうき)さんは兵庫県宍粟市(しそうし)ご出身で、ご実家は寿司店。小さい頃から大人になったら実家を継ぐ!と考えていた吉田さんでしたが、ある時、父から実家を継がずとも良いと言われてしまいます。将来設計が白紙になった際、ふと思い出したのが幼少期に見た明石海峡大橋でした。 「あの明石海峡大橋も誰かが作ったものなら、自分も作ってみたい」そんな思いが芽生えました。

オーナーの吉田勇輝(よしだゆうき)さん

大学では都市デザインを学んでいたことから、卒業後は大手ゼネコンに就職。インフラを中心に、人々の生活を支える仕事に携わり、やりがいを感じていました。一方、土日や昼夜を問わない仕事中心の生活。加えて、業務の内容は業者との折衝などが中心で、理想と現実のギャップに心身のバランスが乱れ、とうとう体調まで崩してしまいます。そんな時、妻・美咲さんが「私は会社と結婚したわけじゃないんだけど!」と一喝。悩んだ末にゼネコンを退職し、自分の生き方を見直すべく夫婦で日本一周の旅へ。

およそ1年半かけて、約40000km(地球一周分!)を移動し、134軒のゲストハウスに宿泊。2000人以上の方とのステキな出会い、交流を通じて、疲れ切っていた心身もすっかり回復しました。ゲストハウスでは、多様な生き方にふれることができ、中には「こんな生き方もありなの?」と感じる場面が多々あったそうです。自分の視野・考えの外にある生き方に揺さぶられる旅。この貴重な旅を通して、「ゲストハウスは生き方を迷っている人にとって、“多様な生き方”を見つける空間になる!」と確信した吉田さん。理想のゲストハウスを作るべく活動をスタートさせます。

理想のゲストハウスを作るべく活動をスタート

世界で一番、阿用が好き!
意外な関西気質も魅力!?

ゼネコン時代、島根勤務を経験した吉田さん。コロナ前の2019年に、当時知り合った知人から、雲南市大東町・阿用地区の稲刈り体験を勧められます。初めての稲刈り体験、でもそのメインは飲み会でした。

収穫作業を終えた夜、現地の人を交えてざっくばらんに夜宴がスタート。そこに参加されていたおじいさん・おばあさんたちのパワフルさに衝撃を受けます。自分より何歳も年の離れた大先輩でありながら、目はキラキラ。人生を謳歌しているような姿は、当時、仕事面で思い悩んでいた吉田さんにとっても余りにも強烈。言うまでもなく、夫婦揃ってすっかり阿用のファンに。

吉田さんによれば、かつて阿用周辺は鉱夫の町で、快活な性格の方が多いとか。関西出身の吉田さんにとって、関西気質に似た阿用の人の雰囲気も、ファンになる要素のひとつだったのですね。

雲南市大東町・阿用地区
Guesuthouse IKIRU

実は日本一周は、阿用を超える場所探しの旅でもありました。旅の終盤、沖縄行きの前夜に夫婦で旅を振り返り「阿用を超える場所はあった?」、「なかったね~」などと話していると一本の電話が。稲刈り体験に誘ってくれた島根の知人からでした。なんでも雲南市で起業型地域おこし協力隊の一期生を募集しているとのこと。「鳥肌が立つぐらい、ドラマみたいな展開でしたね(笑)」と当時を振り返る吉田さん、電話を受けて早々に雲南市へ。「ゲストハウスを通じて関係人口の創出に取り組みます!」とプレゼンして、狭き門を突破。いよいよゲストハウスづくりが始まります。

“あったらいいな”を
詰め込んだ快適な客室

2023年6月に起業型地域おこし協力隊着任後、すぐに物件探しを始め、たどり着いたのが現在の建物。雲南市に合併される前の旧大東町、その初代町長の屋敷でした。築250年を超える立派な屋敷には、母屋のほかに蔵と納屋、それに広大な果樹園・山付き。早速、地元の大工・建築士などと連携し、リノベーションをスタートさせました。資金はクラウドファンディングで募り、無事に目標金額を達成。2025年2月、グランドオープンとなりました。屋号は「誰もが生きやすい場所。誰もが生きられる場所。そんな空間にしたい」と、『Guesuthouse IKIRU(生きる)』と命名。

Guesuthouse IKIRU

宿泊部屋と共用のダイニングキッチンを備えた元納屋は、元の様子が分からないほどに大変身。立派な梁などは残しつつ、前職で得た知見をフルに活用し、居住性抜群の空間に仕上がっています。

Guesuthouse IKIRU

例えばゲストハウス定番のドミトリールーム。頭の向きを互い違いにし、ベッドのハシゴの前にスペースを確保しています。ここ、カーテンで仕切れば更衣室に。さらに更衣室スペースと、ベッドで照明の色・明るさも変更でき、ゲストの使いやすさ、心地良さに配慮しています。そのほかにも、頭を空っぽにできる2階共有スペース、清潔感あるシャワールーム&ランドリールームなどなど。全国のゲストハウス行脚で見つけたイイところ、前職で得た知見をフル活用しています。

Guesuthouse IKIRU
Guesuthouse IKIRU
Guesuthouse IKIRU

また、「一人になりたい時もあるし、静かにしたい時もあるから」と、遮音材を各所に導入。1階で飲み会をしている時でも、2階で静かに過ごすこともできます。

全国134軒のゲストハウスに宿泊して理想の形を見つける

人と人をつないで楽しむ
田舎暮らし体験を

気になる『IKIRU』の体験コンテンツは、吉田さんの移住のきっかけになった稲刈り体験をはじめ、さまざま用意。といっても、吉田さんが橋渡し役となって、周辺の施設・団体で実施している田舎暮らし体験を楽しむスタイル。

人と人をつないで楽しむ田舎暮らし体験を

移住して日が浅いものの、消防団に加盟して、稲刈り体験のまとめ役も担う吉田さん。今では「とりあえず吉田に相談してみよう」とまでなっているらしく、すっかり頼れる兄貴としてのポジションを得ています。なので、まずは吉田さんにやってみたいことを話してみて。きっと想像以上、場合によっては想像の斜め上を行く体験が楽しめるかもしれませんよ。

Guesuthouse IKIRU