登録施設・団体数 105 (2026年10月現在)
掲載施設・団体数 105 (2026年10月現在)
飯南町・民泊&カフェ 星の宿り 何もしない夜に 満天の星を見上げて 気持ちまでスッキリ

「今日は、何もしなくてもいい」。そう言われても、意外と難しいもの。仕事、メール、SNS、次の予定。気付けば休日の旅行まで、「せっかくだから」と予定でいっぱいに。
そんな毎日から少し離れて訪れたのが、飯南町『星の宿り』。築150年を超える古民家を改修した1組限定の宿です。縁側に座ったり、犬と歩いたり。誰かとゆっくり話したり、夜は星をボーッと眺めたり。
やることも、考えることも、いつの間にかシンプルに。飯南町が掲げる「余白あります。」が、妙にしっくりくる時間でした。

築150年の古民家で、
まず予定を空けてみる

飯南町頓原にある『星の宿り』は、築150年を超える古民家を改修した民泊。宿泊は1組限定で、3間、計23畳の広々とした和室を使えます。

築150年を超える古民家を改修した『星の宿り』の外観

玄関を入ると、まず目に飛び込んでくる太い梁。畳の部屋が連なり、その外にはぐるりと縁側。

玄関を入ると目に飛び込んでくる太い梁

チェックインを済ませ、荷物を置いたら、さて何をしよう。

和室でチェックインを済ませる
畳の部屋が連なる和室

縁側に腰掛けて庭を眺めたり、今度は庭先のチェアへ移ってぼんやりしたり。特に“コレをする!”という目的も動機も不要。ただ身を任せてゆったりと。

縁側に腰掛けてくつろぐ

スマホを開けば、時間なんていくらでも埋められます。でも、せっかくここまで来たのなら、閉じたままでもいい。耳に入る音も、目に飛び込んでくる情報も、いつもよりずっと少なめ。その分、風が吹いたこと、鳥が鳴いていること、古い家に差し込む光まで、やけに気になったり。
予定をひとつ空けただけなのに、代わりに入ってくるものがあります。『星の宿り』でいう「余白」は、こんな感じなのかもしれません。

庭先のチェアでぼんやり過ごす

犬と歩く。それくらいが、ちょうどいい

「地味に人気なんですよ」。オーナーの前田さんがそう教えてくれたのが、看板犬・かぐらちゃんとの散歩。

看板犬・かぐらちゃんと散歩に出かける

リードを持って、宿の周りを一緒にぐるり。かぐらちゃんが進めばついていき、止まればこちらもひと休み。視線の先には田畑と山。またトコトコと先へ。やることは、それくらい。

宿の周りに広がる田畑と山
前田さん、かぐらちゃんと宿の周りを歩く

でも、不思議と時間を持て余しません。普段なら、仕事の段取りを考えたり、プライベートの予定を考えたり。いくつものことが頭の中を行ったり来たりマルチタスク。でも今は、かぐらちゃんと歩いているだけ。「こんなにシンプルな時間、最近あったっけ」。そんなことを思いながら、またぐるり。

ビニールハウスでの農作業体験
収穫したトマトやきゅうり、とうもろこし

『星の宿り』では、相談すれば農作業などの体験にも対応してもらえます。ただし、前田さんによれば、農作業をしっかり楽しむなら時間に余裕のある滞在がオススメ。翌朝早くに次の目的地へ向かう人も多いため、連泊など、少しゆったりした旅程の方が組み込みやすいそうです。

土にふれる。作物を収穫する。目の前のひとつの作業を、黙々と。あれもこれもと予定を詰めるのではなく、その時やりたいことをひとつだけ。そんな旅も悪くありませんよね。

前田さんと話すと
島根の地図が広がっていく

オーナーの前田さん

『星の宿り』のオーナー・前田さんは、とにかく話しやすい人。落ち着いた声でこちらの話を受け止めながら、ひとつ質問すれば、話題は飯南町の中だけには収まりません。歴史の話から、文化、食、観光へ。

宿泊者の多くは、出雲大社を目的に島根へ来られる方。『星の宿り』も、その旅程の中で選ばれることが多い宿です。でも、前田さんと話していると、その先がどんどん増えていきます。石見銀山、三瓶山、奥出雲のたたら文化。地元のおいしい店や温泉まで。
さらに三瓶方面へ向かう人には、「この道を通ると海がきれい」と、道の駅キララ多伎から海沿いを走るルートを教えることも。目的地ならスマホですぐに調べられても、その途中にある「この道がいい」は、なかなか検索では出てきません。
地図の上ではただの線だった道に、ひとつ意味が加わる。地域を知る人と話す旅のおもしろさは、案外そんなところにあるのかも。

そして、出雲大社を目指してやって来た人なら、飯南町そのものにも意外なつながりがあります。飯南町には、神在月に出雲大社へ集まる八百万の神々が、まず琴引山へ降り立ち、そこから出雲大社へ向かうという伝承が残っています。
出雲大社へ行くために島根へ来た。その途中で泊まった町にも、出雲へと続く物語があった。知れば、景色の見え方もちょっと変わります。

しめ縄飾り
窓の外を指して周辺を案内する前田さん

「島根にまた来なきゃいけないな」。前田さんがこれまで宿泊者から言われて、特にうれしかった言葉だそうです。
回り切れなかったから、ではありません。知らなかった場所を知った。次に行ってみたい場所ができた。出雲大社というひとつの「点」から始まった島根が、三瓶、石見、奥出雲と、前田さんとの会話をきっかけにじわじわ広がっていく。『星の宿り』は、島根観光の途中で眠るだけの場所ではなく、島根を見る視点を、ひとつ、ふたつと増やしてくれる場所でもありました。

古い蔵で一杯。夜はもう少しゆっくりと

宿の敷地内には、古い蔵を改修したカフェがあります。

古い蔵を改修したカフェの店内
前田さんお手製のバーカウンター

夜は予約制。宿泊者が利用する時には、地元のお客さんと時間を分け、プライベートに過ごせるようにしているそうです。
店内の一角には、前田さんお手製のバーカウンターも。一日の締めくくりに、ここでゆっくり大人の時間を。

フードメニューに加えて、特筆すべきはカクテル。前田さんの奥様が名付けた宇宙と星々にまつわる名前のカクテルがいっぱい。どれにしようか迷う時間も、楽しいひと時です。

星々にまつわる名前が並ぶカクテルメニュー
青いカクテル
蔵の屋根裏に並ぶ昔の食器や民具

蔵を訪れたら、ぜひ上ものぞいてみて。屋根裏へ上がれば、昔の食器や民具がずらり。右を見ても、左を見ても、また古い道具。きれいにそろえられた展示物というより、この場所に長い時間をかけて残ってきたものたちです。
「これ、何に使ってたんだろう」。ひとつ眺めては、また次へ。ちょっとしたタイムトラベル。

ちなみに、『星の宿り』では夕食や入浴を、あえて宿の中だけで完結させていません。周辺にはステーキを楽しめる店や、野菜がおいしいレストラン、そば店などが点在。お風呂も、近隣の温泉施設へ。
ただ、田舎のお店は閉まる時間も早め。前田さんはチェックインした宿泊者に、食事やお風呂の予定を必ず確認します。時間によっては、荷物を置くやいなや「先に行ってきた方がいいですよ」と、また外へ。
宿に来たのに宿の外へ。でも、その先で地元のお店に入り、温泉に浸かれば、飯南町で過ごす時間がもう少し増える。全部を囲い込まないのも『星の宿り』らしさのひとつ。

カクテルをつくる前田さん

余計な明かりが消えると星が見えてくる

そして夜。『星の宿り』という名前の通り、ここでぜひ見てほしいのが星空です。
宿の近くでは、宿泊者に星を楽しんでもらえるよう、すぐそばの街灯を消してもらっているのだそう。灯りが消えると、あたりはぐっと暗く。その分、空には満天の星。

宿の屋根の上に広がる満天の星

何かを足したわけではありません。ひとつ、減らしただけ。
『星の宿り』で過ごしてきた時間も、どこか似ていませんか?予定を詰めず縁側へ。目的地へ急がず、かぐらちゃんとぐるり。全部を検索する前に、前田さんと話してみる。
そうして空いたところへ、風景や人の話、知らなかった島根がするりと入ってきました。そして、自分がどんな時間を心地いいと思うのかも。
飯南町が掲げている「余白あります。」という言葉。余白とは、「何もない」ことではないのでしょう。まだ知らない何かが、入ってこられる場所が空いていること。

夜空に広がる天の川
月明かりの下のたき火

「しまね田舎ツーリズム」は、地域の日常へ少し入ってみる旅です。そこに暮らす人と話したり、土地の時間に身を置いたり。時には何もしないまま。
“何を足すかばかり考えてしまう毎日”だから、たまには「何を空けておこうか」と考えてみる。明かりをひとつ消した夜空に星が浮かぶように、その余白から初めて見えてくるものがあるのかもしれません。

カクテルで乾杯する前田さんとゲスト